No.51 | マイクロ・ソーラー・チムニー | 2008.12.4.掲載 |
太陽光で空気を暖め、それによる上昇気流によって風車を回すのが、「48.ソーラー風車」でした。これを大型にすれば風車の回転で発電することも可能です。
ソーラーチムニーを知っていますか? チムニーは煙突のこと。ソーラーチムニーは太陽光によって煙突状の巨大な筒の中に風を起こす装置です。 右はスペインで1989年までの7年間運転された発電実験施設です。ほぼ円形に広がった屋根の直径は240m。草地に地上2mていどの柱を多数立て、プラスチックフィルムを張って作られています。中央に立っている煙突状の塔の直径は10m,高さは195m。塔の根元には風力タービンを1個持っており、発電出力は最大50kW(キロワット)でした。 現在、直径数qという巨大な発電施設がオーストラリアに建造されようとしています。(右のリンク先を参照) |
簡単な説明 透明な屋根を透して太陽光は地面を暖めます。空気は屋根の外周から入り、熱せられた地面によって加熱され次第に高温になり、上昇しようとします。高温空気は中心向きに流れ、タワーを上昇して外に出ます。屋根の中央部で一番風速が大きく、その風がタービンを回します。 |
マイクロ・ソーラー・チムニー模型
Web上の簡単な解説によると、大きなサイズになるほど太陽光から電力を取り出せる変換効率が良くなるということです。では、小さいものはどうでしょうか。直径1m〜数mのソーラーチムニーも可能でしょうか。 写真は試作した直径50cmほどのソーラーチムニー模型です。屋根の高さは1cm〜5cm。昼間なら明るい窓の近くに置くと、夜なら白熱電球の光でも、中央に置いた紙製の風力タービンが良く回ります。 屋根のカーブはどのような曲線が一番良いでしょうか。煙突はどのような役割なのでしょうか。実験と製作で追求します。 |
屋根のカーブ
熱せられた空気が熱膨張で軽くなり屋根の傾斜に当たるので中央に向かう力が生まれ、その力のために加速して、中央に行くほど風速が増す? そのように考えると、屋根は中央に行くほど高くなる方が良い、とも思えます。しかし、スペインの装置を見ると屋根は鏡のようにほとんど平面です。
そこで、なるべくスムーズに流れる屋根のカーブを考えてみます。熱膨張を計算に入れず、空気は伸びちぢみがないとして、計算してみます。
−−−−−−以下、高校物理程度の計算です。
円盤屋根の半径をR、外周部分の屋根の高さをH、風速をvo とすると、単位時間の流入量は 中心からrの位置の屋根の高さをh, 風速をv とすると、その点での単位時間あたりの流量は周辺部の流入量に等しい(質量保存の条件)ので …式1 すなわち …式2 |
@風速が一定にするなら
もし、風速がどこでも一定、つまり なら
…式3
つまり、高さが中心からの距離に反比例した屋根です。
A一定の加速なら
空気が等加速度で加速すると仮定すれば、等加速度直線運動の速度と移動距離の関係式から
…式4
ただし、a は加速度。式4を式2に代入すると、
…式5
屋根の関数が出来たので、R =1、H =0.01, として, 表計算ソフトを使ってhの値のグラフを描いてみました。
a=0は反比例グラフの屋根。それに比べ、加速度がある場合は屋根の高さの増し方は少なくなります。a=0.02~0.03の場合は、r=0.5 くらいまでは高さが増えない。加速度をそれ以上にしようとすると、屋根が途中で低く垂れ下がることになります。
(4)小さな模型の試作
上のグラフからa=0.01 のカーブを採用してみました。これは加速度をそれ以上とすると、屋根の途中が垂れ下がることを避けたのです。
直径は60cmとして、グラフのカーブから工作用紙でリブを作り、それを太陽光の吸収体として黒画用紙を貼ったベニア板に放射状に並べて、骨組みを作り、その上に食品ラップを貼って屋根を作りました。中心には直径3cmの円柱を立て、軸を設けています。ミニソーラー風車と同様なタービンを厚紙で作成しました。中央筒は直径約6cmの円柱とし、厚紙とペットボトルで製作しました。
図 屋根リブ用型紙
図 リブの取りつけ
タワー根元の曲面
タービン用軸とタービン
(5)模型ソーラーチムニーの動作
日光や白熱電球などの光源を使用して模型ソーラーチムニーの作動を確かめました。この模型ではリブが内部を放射状に分けているため、屋外で風に吹かれるとタービンがめくり上がってしまいます。窓越しの夏の日差しではタービンは4Hz以上の回転速度になります。400Wのハロゲンランプを照射して疑似太陽すると、光量が一定のもとで実験できます。表にはハロゲンランプを照射した時の条件と結果を示しました。温度は接合点のむき出しになっている熱電対を用いて測定しました。
表 模型ソーラーチムニーの大きさと条件
受光部(屋根)の大きさ |
55cm×40cmの長8角形 |
中央筒の大きさ |
直径6cm、長さ40cm |
光源 |
500Wハロゲンランプ 角度60度、距離60cm |
タービンの回転数 |
3.5Hz |
表 模型ソーラーチムニー内の温度
外気温 |
外苑から3cm |
中央筒の根元 |
中央筒の上部 |
24℃ |
27℃ |
51℃ |
51℃ |
数十センチの距離に置いた100W電球でもタービンが回転します。朝、窓のカーテンを開けると、日光が直接あたらなくても、ゆっくりとタービンが回わり始めます。夕暮れ後、気温が下がると余熱で回り続けます。
屋根の形状によって回転数が変わるかと、周縁部の屋根の高さを多少変えてみましたが、タービンの回転はほとんど変化しませんでした。中央筒をはずして、タービンを通った空気がすぐに外気に出るようにした所、タービンの回転数は半分〜4分の1と激減することがわかりました。
(6)考察
@小さな模型マイクロソーラーチムニーも動作する
直径数十センチのソーラーチムニーも良く作動することが確かめられた。作成した模型は余熱でも動作し、これは実物の発電施設が夜間にも発電できることを示しています。
A屋根の傾斜では説明できない
屋根の周縁部のラップを持ち上げて、傾斜を多少変化させてもタービンの回転にはあまり影響がないことから、屋根の傾斜を加速の原因とする説明はおかしいことになります。
また、中央筒をはずすと、極端にタービンの回転数が減り、長い中央筒の方がタービンが良く回る。これらのことから、ソーラーチムニーの動作説明として、中央筒のはたらきを考え直す必要があると考えられます。B煙突(中央筒)のはたらき
中央筒の内部、特に筒の根元で外部に比べて圧力が低いとすれば、屋根の下の円盤状の空気は周縁部と中心部との圧力差によって中心向きに加速されるでしょう。空気が加速される主な原因が屋根の傾きでなく、そのような圧力差ならば、屋根が傾斜している必要はないわけです。
中央部の圧力低下の原因としては熱膨張した高温空気が低密度になったことが考えられます。高温空気にはたらく重力が浮力よりも小さいために上昇する力が生まれ、タワー下部の圧力を低下させます。外気と中心部の圧力差、それが屋根周縁の空気を吸い込ませていると考えられます。
C中央筒内の圧力低下の計算
中央筒の長さがh、断面積S、大気の密度を、内部の空気の密度をとすると、気柱にかかる浮力は であり、
気柱にかかる重力は なので、これによって生じる圧力差は次のようになる。
…式6
これに試作した模型のサイズを当てはめます。中央筒の高さを0.4m 、中央筒内部の絶対温度が約1割(30K程度)上昇したため密度が一割減少したとして、圧力差を見積もると
非常に小さな圧力差ですが、空気を吸い込むには充分だと思われます。この値は中央筒の高さhに比例して大きくなります。つまり、タワーが高ければ高いほど、屋根の周縁部との圧力差は大きくなり、強い風が起こることになります。
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このページの内容の一部は 『太陽電池のしくみがわかる実験と工作』 誠文堂新光社 に掲載しました。