No.36 | 気液ヒートポンプ・サイクル | 2005.8.14.掲載 |
冷媒(液体)を低圧空間に吹き出して気化させることで低温にし外界から吸熱させる。さらに気体を加圧・放熱させて液化する。これが家庭の冷蔵庫やエアコンでお馴染みの「気液ヒートポンプサイクル」です。このサイクルを何とか理科室で手に取るように見せたい。No.32気化クーラ実験では減圧・気化による冷却をメタノールで行いました。しかし、排出されるメタノールは微量であり、その他は油式真空ポンプの油に吸収されてしまっています。今回は冷媒の循環の実現を目指します。
ジクロロメタン冷媒
そこで、メタノールより沸点が低いジクロロメタン(二塩化メチレン, CH2Cl2, 沸点40℃)に着目しました。ジクロロメタンはアクリル樹脂用の接着剤として日曜大工店にも市販されており、工場では洗浄用溶剤として多量に使用されています。蒸気圧は20℃で47KPa(メタノールは13KPa)ですから、真空度が低い小型ダイヤフラムポンプやピストン式ポンプで十分気化できます。
気液ヒートポンプのサイクルを実現 ポンプは小型の2ピストン式吸排気ポンプ(SINKO KIKO DOP-9D, 100V50W)を使いました。内面は金属ピストンシリンダとテフロン(ピストンリング)なので、冷媒を吸収しません。吸気側の定格圧力は6.65KPaと書いてありました。 大気圧で右図の装置を組み立て、試験管にジクロロメタンを10〜20mlほど入れ、ポンプの電源を入れます。10秒ほどでゴム風船がこぶし大にふくらみます。それ以上はふくらまないので、風船側に液が流れないようにピンチコックで密閉します。 つまり実験装置の高圧側はほぼ大気圧です。低圧側にマノメータを入れて圧力を測ると、20〜15KPaていどを示しました。 |
気化・液化が見える 試験管内のジクロロメタン液が沸騰します。(下の写真) アルミパイプは熱くなります。右の写真ではミニ扇風機で風を送って空気への放熱を促進しています。 室温32℃で実験したところ、どんどん温度が下がり、数分間で4.9℃まで下がりました。さらに、試験管底部をティッシュで包み断熱すると、−1.4℃まで下がりました。(下の写真)
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安全上の注意‥換気に注意。 ジクロロメタンの濃厚な蒸気を吸い込むと有害です。労働安全上の許容濃度は50ppm (170mg/m3) であり、十分に換気をしながら作業しなければなりません。また、長期または反復暴露では発ガン性も疑われています。環境への影響としては、特に水棲生物への有害性が指摘されています。 参照‥国際化学物質安全性カード アクリル接着剤(ジクロロメタン)をフェルトに吸わせて蒸発させ、霜の付着を観察する実験が普及していますが、大気中に相当な量のジクロロメタンを蒸発させてしまうことになるので、使用量や換気に十分注意する必要があります。 本実験装置では実験中にジクロロメタンを放出することはほとんどありませんが、吸排気ポンプのピストン部で気密の漏れがある場合、微量のジクロロメタンが排出される恐れがあるので、やはり換気に注意しましょう。ちなみにジクロロメタンは空気より重く、低所に滞留します。 |
メタノールでも可能 2005.8.16
ジクロロメタンのかわりにメタノールで行なってみると、そのままの装置で動作しました。10分間で室温28℃から8℃(試験管をティッシュで断熱)まで温度が下がりました。その場合、試験管に室温のメタノールを入れて、電源を入れた初めの10秒程度だけメタノールの沸騰が見られます。液化は少量づつですが連続的に見ることが出来ます。
もちろん、メタノールの場合も換気には注意しましょう。
はみ出し情報
★ノズル先 ノズルは銅パイプの先を適度につぶして作りました。つぶす程度はポンプの排気側圧力で大気中へシューと手に弱い風が感じられる程度で、等価直径は0.2mm程度(あてずっぽ)かな、と思います。ポンプの性能によって最適な直径が変わると思います。だんだんつぶして行き、低圧側が15〜20KPaくらいとなるように調整します。
★ゴム栓やゴム管 天然ゴムなどはジクロロメタンに溶かされます。ポリエチレンまたはテフロンが理想的ですが、シリコンゴムでも今のところ大丈夫です。ただし、シリコン栓はジクロロメタン液に数時間浸けておくと、膨張します。
★ハンドポンプ式は可能か? 小型ハンドポンプクーラーを試作中です。(右の写真) |