No.74 brushless
ブラシレスモーター 2024年4月
おもしろ実験メニュ
 

教科書 のモーター 角度によってはスタートできない

   図1は中学理科や高校物理で見られるモーターの図です。回転力の生まれる原理と整流子とブラシのはたらきについては、これで良いでしょう。しかし回転子の角度によっては、 コイルに電流が流れなくなり、その角度からは静止状態からスタートできません。使い物にならないので、こんなモーターは巷に一つも見られませ ん。

整流子3つの式ブラ シモーター

 おもちゃやミニ四駆など、小さな模型用 モーターでも、分解してみると図2のような3つの整流子を使ったモーターです。こうすれば、回転子がどの角度で静止していても、電流を流せば スタートします。物理の授業でも、少 なくともこのぐらいは紹介すべきではないか、と私は思います。

 このタイプのモーターは色々な身近な道 具の動力として数多く使 われています。コイルに流す電流の向きを切り替えるために軸に設けられた整流子に接触するブラシが使われているので、「DCブラシモーター」と呼 ばれます。DCは直流電源の意味です。DCブラシモーターは単純な構造ながら、電流の大きさで回転数を自在に変えることができるので、電動工 具等にも多用されています。

 電気ドリルや丸ノコなどの電動工具では 比較的大きな電流が流 れます。モーターの空冷窓から中を覗くと、回転中にはブラシと整流子の接触部分に火花が見えます。使えば使う程ブラシは消耗するので、定期的に交 換する必要があります。図3は交換用のカーボンブラシです。もちろん大電流を流すモーターほど断面積の大きなカーボンブラシを使っています。

ブラシレスモーターとは

 近年はブラシを使わないタイプのモーターが多く使われるようになっています。ブラシを用いないので「ブラシレスモーター」と呼ばれます。構造としては、図4のように、ブ ラシレスモーターでは、コイルを固定しておき、磁石を回転させます。しか し、磁石の回転に合わせてコイルを流れる電流の向きをタイミング良く切換える必要があります。多くのブラシレスモーターでは、モーター内に磁気セン サーを複数個取り付けて、その信号をもとに外部の電子回路によってコイルの電流の向きを切り替えるという方式が採用されています。

 磁気センサー以外のセンサー、たとえば ロータリエンコーダなどをつかう方式も稀にあります。また、模型用などでは、センサーを使わずコイルに発生する誘導起電力などから磁石の回転 角を割り出すセンサーレス方式というのもあ りますが、低回転時に誘導が弱くなるので、低速回転の制御に工夫を要します。

ブ ラシレスモーターの利点

 ブラシレスモーターは、当たり前です が、ブラシの消耗がないので長寿命です。また、火花を飛ばすことなくコイルに大電流を流すことができるので、小型でも強力なモーターが出来ま す。年々増加してきた電気自動車やハイブリッドカーの多くは、4輪のすべてに各1個のブラシレスモーターを配置した方式を採用しています。そ れらのブラシレスモーターでは、磁極とコイルの数を増やす多極化がされ、磁石にはネオジムなど強力な磁石が使われます。

多用されるホールセンサー

  ブラシレスモーターに必要な磁気センサーとしては、「ホール効果」という現象を利用した部品が使われます。ホール効果とは、物体(導体や半導 体)を流 れる電流の方向と垂直に磁場がかかると、流れる電子または正孔が流れの方向と垂直、磁場にも垂直な方向に力を受けて、物体の側面に電圧を生じる現 象です。この効果を利用して磁界の向きと強さと測ることができるセンサーが「ホールIC」です。内部にホール素子と定電流回路や増幅器などの 回路を内蔵しているICであり、磁界強度をアナログ値で出力するものや、0か1のデジタルで行うものがあります。ホール効果は物理の教科書で 計算も扱いますが、モーターに使われているという記述は一切ありません。

 図4はコイル3つのモーターであり、磁界の反転を検出する3つのホールICが配置されます。図5は市販のホール ICであり、トランジスターのように3本足で、数ミリ角の大きさです。大量に生産されているので、1本数十円で入手できます。以下には、これを使ったモーター工作を紹介し ます。    


図1 中高の教科書に見られる図


図2 ブラシモーター(3コイル)

図3 電動工具用のカーボンブラシ


  
図4 ブラシレスモーター内の配置例




図5 市販のホールIC(秋月電子HP)

 

磁極チェッ カー
 

  購入したホールICはモーターに多用される交番磁界検出用です。出力はHghかLowのどちらかであり、ラッチタイプ、つ まり磁界が反転 するまでは、前のHigh,Low出力が維持 されます。Output端子はFETのオープンドレインなので、接地されるかどうかの出力です。回路図のように接続すれば、N極かS極か を調べる磁極チェッカーになります。


 
電磁石一つのブラシレスモーター


1つのコイルのみのブラシレスモーターを作ってみました。電磁石のコイルはゼネコン用ソ レノイドのコイル、鉄芯は番線を数本束にしたものです。
  ホールICの出力がHighになると、コイルに電流が流れ、磁石に反発力を及ぼします。
 電磁石を駆動するのは、パワーFETです。2SK4017を使いました。Pチャ ンネルパワーFETならほとんど何でもOK。
 コイルと並列に入れたダイオードは逆起電力対策であって、一般整流用ダイオードIN4007を使いました。念のためです。


 電流は反転せず、半分はOFFの時間です。
    センサーの出力波形


回路
 このモーターのコイルには鉄芯があるので、コギングがあります。鉄の芯が磁石に引き付けられる力 が発生します。流す電流が弱い場合はブルブルと感じられる影響があり、電流が弱すぎ場合は回転しないこともあります。このモーターも電源を切る と、電磁者の上側と下側に磁石が近づく位置に停止します。
 このときホールICがOFFになる位置だと、また電源スイッチを入れても電 流が流れずスタートしません。SNで止まるか、NSで止まるかは五分五分の確率です。電磁石を少し離しコギングを弱め、ホールICの位置を調整すれば、常に起動できるよう にはできます。が、やはり実用的なモーターではないですね。

はみ出し情報
   鉄芯を用いず空芯コイルにすればコギングは無くなります。また、交番電流にすればが、始動できないことはありません。次は交番電流を流すタイプの強力コアレス・ブラシレス モーターの工作です。

   → No.75 コアレス・ブラシレスモーター

 

 

 

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