No.64

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 逆 二乗力発生器
    〜リアル惑星運動への挑戦

2018.1月.掲載

おもしろ 実験メニュ    前 の実験へ

逆二乗力を実演したい

  万有引力の法則,クーロンの法則, 磁気のクーロンの法則はいずれも距離の二乗に反比例する力、逆二乗力という点で共通しています。 物体に逆2乗力がはたらくような装置を実際に作ることが出来れば,目の前で惑星運動のような楕円運動をするでしょう。 いろいろ資料をさがしましたが、 そういう装置は過去に誰も成功したことが無いようです。

orbit

 中 心からの距離の二乗に比例した中心力がおもりにかかるような装置を作製しました。

  左はストロボ写真ではなく、撮影した動画から15分 の1秒 間隔(2コ マ分)で1周回分を抜き出し, 比 較で自動合成したものです。 質量が 約150gの球形の重りを2つ重ねたものを天井から糸で吊るし、それを糸が中心へ引いています。 2個の鉛重りの重なり方が変化しているのは, カメラの位置が中心の真上から少し外れているためです。

 結 果として,軌道は閉じた楕円となっています。 こういうことがやりたかったのです。

 


科学館では見ることができない

   

科学館などで曲面に玉をころがす展示を見たことがあるでしょう か。 ホ ルンの先の広がりのような, 高さが中心 からの距離に反比例する曲面 ( y=1/xの曲線をy軸中心に回転させた面) を 作り、そこに小さな玉を置けば, 玉には中心向きの1/x^2に比例する力(逆二乗力)がはたら きます。 もっとも、斜面では玉の接地点と重心の位置がズレるので, 実 際には1/xの曲面から玉の半径だけ切り下げた包絡面にする必要があります。展示物 でもそうしているのだと思います。  
 しかし、この 方法では、穴に近づくと玉の速さが増すのは見られますが、一定の楕円形の惑星軌道を描いている玉を見ることはできま せん。
  その原因は、玉の回転です。玉と面との摩擦力はゼロではないので、玉はどうしても 転がってしまいます。 斜面を下った分の位置エネルギーの減り分の一部が 玉の回転のエネルギーに取られ てしまうのです。

ball


curve-surface

やはり空中に吊る方法で

そこで、実験室の天井から重りを 糸で吊って、中心位置から糸で重りを引くことにしました。 無摩擦を実現するには、一番手っ取り早い方法です。糸吊式の問題点は 吊り糸の長さが有限(床から天井まで2.6mていど) なので、重りが中心位置から離れるほど、重力による位置エネルギーを持ってしまうことです。そのエネルギー増加を打ち消すように中心力を作る必要があります。
  次図は作製した中心装置です。中心力発生のための引き糸は重りの運動面を避けるため、プーリーを使って引き回し、別な装置に連結します。

ceterfig

  

逆二乗力をどう作るか(@スロープ案)

さて、中心から来る糸を逆二乗力で引かなくてはなりません。   初めに試したのは右図のようにカーブを描いたスロープにローラーを走らせる方法です。   スロープは1/x曲線にローラー半径を加味した包絡線にします。   直角な方向から一定の力f で引かせます。充分長い糸ゴムならほぼ一定の力になります。

slope

  スロープの形を求めましよう。位置エネル ギーの合計が1/xに比例した位置エネルギーにならなければならないので、 中心からの距離をx ,ローラーの中心位置の 関数をY(x) としてすれば, 次 式のように表せます。 

eq1

ここで,定数は次の通りです。
  m :重りの質量,K : 引力の定数,f  :糸ゴムの力,:重力加速度,L : 吊り糸の長さ

Eq.1から、次のように関数(定数項を除く)が得られました。

slorp-curve

さらに、このカーブからプーリー半径を切り下げた 包絡線がスロープのカーブです。

ところが上手く行かな い
 
 右が実際に作成したスロープです。 ところが、ローラーとの滑らかな接触が難しいのです。 ローラーはスロープ上を抵抗なく運動する必要があり、 ロー ラーの軸はフラフラせずにスロープと常に直角に保たなければなりません。 そのためしっかり作ると、 どうしてもローラー部の重量が増えます。 重りと連動している部分に 無視できない質量があると、 余計な運動エネルギーが発生してしまい、 それでは転がる玉と同じになって致命的です。 そのような点で軽量のローラーを作ることが 難しいのです。  
 
slope
でも、Y カー ブって‥
しかし、スロープを眺めていて、あることに気付きました。 スロープのカーブが円の一部に近いのです。右はエクセル上でY曲線と正確な円弧とを重ねた図です。各定数を調整すると、一定範囲で、完全な一致ではないが、右の図ていどに は重なるのです。これは吊り糸式の効果と思われます。
円弧と似ている
 A回転アーム
 
円 弧ならば、難しいロー ラーとスロープの代わりに、回転アーム式にすれば、簡単に軽量な構造で実現できます。
 次図が作製した回転アームです。軽量なバルサ材とカーボン板でできています。アームの先端に連結糸と糸ゴムに 接続する糸を繋ぎます。吊り糸の長さや引力の 係数など、定数を変え、Y曲線のエクセルグラフ上で、それにフィットする円弧を決まったら、その円弧半径に合わせて回転アームの長さを調整します。
 図面のアームの根元に貼ったプラスチック板は、軌道での投入に失敗してアームが90°以上になって連結糸が弛んでプーリーから糸が外れ るのを防止するためです。

アーム図面 arm

  右 はフィットする円弧をさがすためのエクセルシートです。 黒が目的の位置エネルギー変化の曲線、 青 はそこから重りの重力による位置エネルギーを差引いたY曲線、 赤が円弧の曲線です。

  
 右のよ うに、Y曲線は最大値があり、 これよりxが大きいと連結糸が弛んでしまうので、 そ こがxの限界になります。 右の例では xが約11cm〜24cmの範囲で重なっています。 

 
 xが10cm以下になると、逆二乗力より急激に大きな力になってしまうので、 アー ムにはストッパーを儲け、 中心装置には円形の柵を設けています。

   xが限界の位置のときの円弧の中心からの動径の角度と、その時のアームの角度が一致するように 連 結糸の長さを調節します。
エクセルグラフ

右は装置全体の配置図です。

 中 心装置から回転アームまでの 連結糸には 伸びの少ない高密度ポリエチレン製の釣り糸を使いました。

 回転アームにかかる力をほぼ一定にするため、 糸 ゴムは長いものを使います。 実際には輪ゴムをつないで、 糸ゴムにし、 自然長の2倍程度に伸ばして 目的の1Nていどの力に調整して使っています。
 ペー ジのトップに置いた写真は  K=0.058 L=2.6[m] m=0.302[g] f=0.88[N] R=15.0[cm]  の 条件で撮影したものです。 吊り糸の長さがより短かくなると、中心からの距離の範囲はより狭くなりますが、 机上の装置として 吊り糸1mていども可能と思います。
配置図

実 験と評価
  軌道への投入については、ば ねなどを利用して投入器を作製しても良いでしょうが、吊り糸を弛ませないように手で投げ込んでも充分です。
 xの範囲からはみ出ない限りは、楕円形の軌道になるはずですから、適当な角度・速度で投入して構いません。はみ出た時 は円形の柵に当たるか、外から歪んだ軌道で戻ってくれます。思い通りの軌道に投入するには多少の慣れが必要です。
 xの範囲の制約のために離心率の大きには限度があります。しかし、そんなに扁平でなくとも、xが増減し、速度も増減す る様子を楽しむことが出来ます。
軌道投入
 
 
 
中心力が逆二乗力になっているかどうかは、 楕円軌道の長軸が回転するかどうかで判断できます。
   右はシミュレーションですが 少しでも2乗以下なら反時計回り、 2乗以上なら時計回 りに、楕円の軸が回転します。

  You-tube動画

1.9乗力
逆 1.9乗力
2.1乗力
逆 2.1乗力
課題
 
 
動 画をご覧になった方は分かると思いますが、 数回周回する間に、楕円軌道はしだいに円軌道に推移してしまいます。 動径方向の減衰なので、プーリーなどの可動部の摩擦等が原因と思われます。 その部分を改善すれば、 運動の寿命を延ばせるかも知れません。

 

   



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