小型ソーラーチムニーの研

茨城県立中央高等学校科学部

1 はじめに

地 球温暖化問題への解決策、脱化石燃料のための方法として、太陽エネルギー利用技術への関心は高まりつつある。近年、欧米諸国では太陽光を利用する大規模な 発電施設の建設が盛んである。中でも、現在オーストラリアの砂漠に造られようとしているソーラーチムニー発電施設は屋根の直径 7キロメートル、中央タワーの高さ1キロメートルという巨大な建造物である [1]

私 たち科学部では太陽電池や風力装置など、太陽起源のエネルギー変換に興味をもって色々な研究活動を行っている。また、科学技術への啓蒙を目的として、小中 学生向けの科学教室を行っているが、その科学教室の実演実験として、太陽光によって海風が起こる仕組みを示す実験(資料1)やソーラー風車の実験(資料 2)を開発していた。したがって、スペインで1989年まで動いていたパイロットプラントの写真(図1-1)をインターネットで見つけた際には、そのス ケールの大きさと単純さに驚くとともに、その作動原理に興味を持ち、研究をしたいと考えた。

本 研究はソーラーチムニーを高校物理の範囲で考察し、その模型を製作しながらソーラーチムニーの作動原理と動作の条件を明らかにすることを目的とする。さら に、その結果から広場などに設置できる大きさ、例えば直径数メートル程度の超小型ソーラーチムニー発電装置の実現が可能かどうかを検討する。

図1-1 スペインで7年間運転されたソーラーチムニーのパイロットプラント
 屋根の面積約4万平方メートル、煙突の直径10m, 高さは195m 、出力50kw

2 ソーラーチムニーの謎

スペインの施設やオーストラリアに計画中の施設について、インターネットに掲載された簡単な構造図などから、作動原理を理解しようとすると、いろいろな疑問が沸いて来た。それらが研究の出発点である

2-1屋根の傾斜の謎

2-1 ソーラーチムニーの説明図(エンバイロミッション社HP)

図 2-1は研究開始の当初、WEBに掲載されていた説明図だが、現在は掲載されていない。透明屋根を透過した太陽光は地面または内部に置かれた蓄熱体によっ て吸収され、それによって内部の空気が熱せられる。熱せられた空気は熱上昇するが、傾斜した屋根に当たるので空気は中心に向かって流れ、その流れが中央に 集中することでタービンを回せる程の風力が生まれる。これが、研究を開始したばかりの私たちの理解だった。

と ころで屋根にぶつかった空気の熱上昇力が水平方向の力を発生するためには、屋根は中心方向が高くなるように傾斜している必要がある。図2-1でもその傾斜 が描かれている。しかし、スペインの施設の写真では屋根が傾斜しているように見えない。これで中央に風が集まるのはなぜだろうか。

2-2中央筒は必要か

ソー ラーチムニーの中心には高い煙突状の円筒があり、そこから上に空気を排出するようになっている。実物のソーラーチムニーの中央筒の根元には風力タービンが 設けられ、そのタービンの回転によって発電機が回り発電するという。それでは長い煙突状の中央塔は何の意味があるのだろうか。スペインのものではタワーは 赤と白のチェック模様に塗装されている所から見て、太陽光を受けるためではないようである。ならば、空気をわざわざ高いところに持ち上げて排出するのでな く、タービンで使い終わった風は外に排出してしまえば良いのではないか。

しかし、2-1 と2-2の疑問はどちらも私たちが仕組みを誤解していたために生じたものだ った。私たちは資料1や資料2の実験の経験から、面に沿った空気の流れというイメージを強く持っていたからか、誤った理解をしていた。

2-3大きい方が効率が良いのはなぜ?

スペインの施設の発電効率を見積もろう。入射太陽光のエネルギー密度を1kW / m2 とする。資料には屋根面積約4万平方メートルとあるので、入射エネルギーは4万kWである。発電出力は50kWとあるので、発電効率は

fig2-3-1

一方、オーストラリアに建造予定の施設については、直径が約7kmとのことなので、入射面積が3.9 ´ 107 m 2 である。したがって入射エネルギーは3.9 ×107 kW である。発電出力の予測が200MWとあるので、発電効率は

2-3-2

このように発電効率は太陽電池発電施設などより小さい。しかし、屋根部分が単純でローコスト、建造にかかるエネルギー密度も少ないと考えられる。

発電効率は大型の方が効率良い、ということがデータからも伺われる。だとすると、もし小さな模型のソーラーチムニーを作成しても極端に効率が悪いはずであり、動くかどうか疑問である。では、大型の方が効率が良くなるのは、どんな効果によるのだろうか。

3 研究の方法

ソーラーチムニーの理論や設計について書かれた書物はなく、インターネットから得られた情報としては、1982年からスペインで7年間運転されたパイロットプラント施設(上の写真を参照)についてのわずかな情報しかなかった。そこで、高校物理 [2 ]の観点から原理を推察し、実験と測定によって確かめながら研究を進めることとなった。

3-1屋根の適切な形状について

当初の作動原理への理解では、熱せられた空気が中心に向かう力を得るためには、平面の屋根ではなく中心に向かって次第に高くなるのが条件と思われた。そして、どのようなカーブで屋根の高さが変化すれば空気がスムーズに流れるだろうか、を考察した。

簡 単のため、空気の熱膨張による体積変化は計算に入れないことにした。これは、建造予定の巨大チムニーのシミュレーション映像の中でも周辺入り口で空気の温 度が 30℃、タワー根元で70 ℃と予想されていたので、温度変化は絶対温度で343 K÷303 K=1.13倍、つまり熱膨張は約1割でしかない。したがって、屋根形状を考える時には、熱膨張を考慮しなくとも問題ないと考えたからである。

fig3-1

図3-1ソーラーチムニーの外観

3-1-1風速を一様にする屋根

まず、中心からrの位置の屋根の高さをh,風速を vとすると、半径 rの高さhの筒状の面を通過する空気の単位時間の流量2πhv であり、円盤屋根の半径をR、周辺部の屋根の高空気が一定の速さで流れるような屋根の高さを0、風速をv0 とすると、単位時間あたりの流量は周辺部の流入量に等しいから(質量保存)、次の関係が成り立つ。fig3-2

eq3-1    …式 3-1

これより

eq3-2     …式 3-2

もし、風速がどこでも一定v = v0 なら

eq3-3      …式 3-3

つまり、高さが中心からの距離に反比例した屋根となる。

fig3-3

図3-3風速一定となる屋根形状

   式3-3の関数グラフは rの減少関数なので、屋根に当たった上昇気流は常に中心向きに向かう力を得ることになり、理にかなっているおり、単純で理想的なように思われた。しかし、 風速は一定なのだから、現実のソーラーチムニーと一致しないのは目に見えている。

3-1-2加速する屋根

そこで、空気の流れが中心に進むにつれて一定の加速を得る場合を考える。
等加速度直線運動の速度と移動距離の式から

eq3-4…式 3-4

ただし、a は加速度。式3-4 を式3-2に代入すると、

eq3-5 …式 3-5

R=1, h0 = 0.01 , v0 = 0.1 としてa=0 からa=0.03とした場合について
表計算ソフトを 用いて、関数のグラフを描いてみた。

fig3-4

図3-4 中心からの距離とその点の屋根の高さ(R=1, h0 = 0.01, v0 = 0.1 )

a=0は等速の屋根である。それに比べ、加速度がある場合は屋根の高さの増し方は少なくなる。a=0.02〜0.03 の場合は、r=0.5 くらいまでは高さが増えない。加速度がそれ以上 の場合は屋根が途中で低く垂れ下がる。

 

3-1-3屋根の高さ一定の場合の風速

屋根の高さが一定の場合には流速の変化はどうなるだろうか。式1において、h = h0を代入すると、

 eq3-6  …式 3-6

高さが一定な屋根の場合、中心からの距離に反比例した流速になる。

 

3−2小さな模型の試作

模型の試作にあたっては、3-1-2の等加速の屋根がもっともふさわしいと考え、そして グラフからa=0.01のカーブを採用した。これは加速度をそれ以上とすると、屋根の途中が垂れ下がることになるので、それを避けたのである。

直径は60cmとして、グラフのカーブから工作用紙でリブを作り、太陽光の吸収体として黒画用紙を貼ったベニア板にリブを放射状に並べて、骨組みを作った。中心には直径3cmの円柱を立て、ミニソーラー風車と同様なタービンを取り付けた。円柱の根もとには空気が滑らかに流れるよう曲面のスロープを設けた。その上に食品ラップを貼って屋根を作った。中央筒は直径約6cmの円柱とし、厚紙とペットボトルを材料として製作した。

           図3-5 屋根リブ用型紙

図3-6リブの取りつけと根元へのスロープの取り付け

図3-7 タービン用軸とタービン

3−3作動実

3-3-1作動状況

日光や白熱電球などの光源を使用して模型ソーラーチムニーの作動を確かめた。

窓 越しの夏の日差しではタービンは4Hz以上の回転速度となる。 400Wのハロゲンランプを照射して疑似太陽とすると、光量が一定のもとで実験できる。表にはハロゲンランプを照射した時の条件と結果を示した。温度は接 合点がむき出しになっている熱電対温度計を用いて測定した。

表3-1模型ソーラーチムニーの大きさと条件

受光部(屋根)の大きさ55cm×40cmの長8角形
中央筒の大きさ直径6cm、高さ40cm
光源500Wハロゲンランプ角度60度、距離60c
タービンの回転数3.5Hz (タービン翼のピッチ角 約 30°)

表3-2模型ソーラーチムニー内の温度

外気温外苑から3cm中央筒の根元中央筒の上部
24 ℃27 ℃51 ℃51 ℃

こ の作動実験によって、数十センチの大きさの非常に小さなソーラーチムニーが作動することを確かめられた。また、弱い光でもタービンが回ることがわかった。 数十センチの距離に置いた100W電球で動く。朝、窓のカーテンを開けると、日光が直接あたらなくても、ゆっくりとタービンが回わり始める。

また、余熱で動作することも確かめられた。日没後しばらくの間回り続ける。これは実物の発電施設が夜間にも発電できることを示している。

3-3-2説明の変更

屋根の形状によって回転数が変わるかと、周縁部の屋根の傾斜を多少変えてみたが、タービンの回転はほとんど変化しなかった。一方、中央筒をはずして、タービンを通った空気がすぐに外気に出るようにした所、タービンの回転数は激減することがわかった。

こ れらのことは、当初の動作説明が誤った理解によっていたことを示していた。ソーラーチムニーの動作説明として、中央筒のはたらきを考え直す必要があると考 えられた。作動中、中央筒をわずかに持ち上げると、隙間から線香の煙を吸い込むことから、中央筒の下部が低圧になっていることが推察できた。

fig3-8

図3-8試作した模型ソーラーチムニー

3-3-3流速の測定方法

定 量的に扱うためには流速を測定する必要があったが、模型ソーラーチムニーの流速は1m/sに満たず、市販の風車式風速計では測定できなかった。熱線プロー ブ式の風速計があれば測定できそうだったが、購入できず、流速を定量できない。そこで、タービン回転数から流速を測定する方法を開発した。

タービン部分の管の内径をD、中央の軸半径(無風部分の半径)をa、タービンの半径をb、として、半径a〜bに平面状のタービン翼があるとする。

 fig3-9

図3-9タービン翼

翼の傾きをθとする。空気の流れの速度はu、タービンの回転数をfとする。
簡単のため 、各翼への風力が中心からa+b/2の点Pにはたらくことにして、その点Pの周速度をvとする。

fig3-10

図3-10タービン翼速度と流速の関係

定常回転しているとき、点Pの速度に対する空気の速度は翼の傾き方向と一致するはずだから、

u = v tan q …式 3-6

また、周速度と回転数には次の関係がある

eq3-7…式 3-7

これらより

eq3-8…式 3-8

模型のサイズを当てはめa=0.015 、b=0.013、とすると、

eq3-9      ‥式3-9

タービンの無い部分の筒では断面積が4/3に大きくなるので、流速は3/4となる。

 eq3-10  ‥式3-10

この式を用いれば、タービン翼のピッチ角と回転数から筒内の流速が測定できることになった。そのため、タービン翼の一枚を黒く塗って、目印とした。

3-3-4流速の測定

図のように工作用紙の筒を連結したものを中央筒として、長さを変えてタービン回転数を測定した。あわせて、筒の数カ所の温度を記録した。

500W ハロゲン灯をスタンドに固定して、PET管の側面ごしにタービン翼の回転数を目で数え、20 回転する時間をストップウォッチで計測した。タービン翼はθ=45°に調 整した上で実験を行った。筒の内部の空気の温度は熱電対の先を筒の空中にぶら下げて、長い筒の時は筒の側面に小さな穴を開けて熱電対を差し込み測定した。

fig3-11

図3-11流速の測定

fig3-12

図3-12測定場所

fig3-13

図3-13測定結果

表3-3筒内の温度分布

 

4 実験結果の検討

4-1中央筒のはたらき

測定結果より、中央筒の長さが長くなるにつれ、空気の流速は増える。つまり、屋根の傾斜が流れの原因でなく、中央筒が流れを維持する原動力であることが確認できた。空気を加速する主な原因が屋根の傾きでないなら、必ずしも屋根が傾斜していなくても良いわけである。

屋 根に傾斜がない場合でも、筒の根元の空気の圧力が外気の圧力に比べて低ければ、屋根の下の円盤状の空気は周縁部と中心部との圧力差によって中心向きに流れ る。熱膨張した高温空気が低密度になることで、上昇する力が起これば、中央部の圧力低下の原因となる。つまり、斜面の流れが集合して中央筒の空気を押し上 げるのではなく、中央筒の熱上昇流が屋根部分の空気を引き上げるとも言える。

図4-1中央筒による圧力差が風の原因

4-2中央筒による圧力差の計算

中央筒内の空気によって、どの程度の圧力差が生まれるのだろうか。

中央筒の長さh、断面積S、大気の密度をρo、筒内部の空気の密度をρ とすると、気柱にかかる浮力は浮力 であり、気柱にかかる重力は重力 なので、これによって生じる圧力差は次式で求められる。

eq4-1 …式 4-1

 

表3-3 3のAの状態について当てはめ、中央筒の高さを0.55m、中央筒内部の絶対温度が 13K 程度上昇すると、したため密度は12/300=0.04 つまり4%減少する。圧力差を見積も ると

圧力差

この圧力差は小さな値である。この圧力差がどの程度の空気を加速するか、見 積もってみよう。やや乱暴だが、単純化のため受光面にある空気を内部の空間を筒状と考え、入り口から出口までの断面積が同じ筒状の空気塊に上記圧力差が作 用する場合の空気の加速を考える。トンネルの断面積をS、長さL、加速度をaとして、摩擦力等がかからないと

すると、運動方程式(ma = F )より運動方程式から であるから、

eq4-1 …式 4-1

空気密度計算式と模型の値を代入すると、

 加速度

加速距離が 0.25mとすると、等加速度直線運動の式より

等加速度運動の式から

例えば、初速を0 としても v ≒ 0.4 [m/s]と求められ、実際の流速のていどとなる 。

流路の空気にかかる力としては、この圧力差の他に、通路で発生する摩擦力がある。摩擦力による圧力損失は、速度が増えるにつれて増大すると考えられるので、圧力損失の計算も必要である。

4-3中央筒の圧力損失

こ の項では、模型内を流れる空気にかかる圧力損失を計算する。高校物理の範囲からはみ出すが、大学生向けの「流体力学」テキストを参考資料として使用した。 真っ直ぐな円管の管摩擦係数は図 4-2のムーディー線図を利用して求めることができる。ただし、管摩擦係数λの定義は次式である。

eq4-2      …式 4-2

 また、図中の横軸となるレイノルズ数Reとは(慣性力/粘性力)を表す無次元数であり 、次式で与えられる。

 eq4-3     …式 4-3

ここでμは流体の粘性係数である。

図4-2ムーディー線図

図 4-2で見られるように、管摩擦係数は流れが乱流の場合はレイノルズ数と壁面の粗さks によって、流れが層流の場合はレイノルズ数だけできまる。もし、レイノルズ数が臨界レイノルズ数 2300より小さければ層流であり、管摩擦係数λは次式で与えられる。

 eq4-4   …式 4-4

Re 圧力損失D P は式 4-2を変形した次式より求められる。

eq4-5     …式 4-5

これらの式をソーラーチムニー模型について当てはめよう。

空気の密度 1.2 [kg/m^3]、空気の粘性係数を 0.000018 [Pas], 流速を0.4 [m/s]として

 

eq4-6 …式 4-6

したがって、レイノルズ数が 2300より小さいので、層流である。管摩擦係数λは

 4-7  …式 4-7

中央筒の長さを0.55mとすると、これによる圧力損失ΔPは次のように求まる。

 4-8  …式 4-8

中央筒による圧力損失の計算値は中央筒が生み出す圧力差にくらべて小さい値となっ た。

 

4-4受光部の圧力損失−−矩形管での近似

受光部の空間は形状が複雑で計算が困難なので、簡単のため、矩形管に近いとみなして、圧力損失を求めることにする。

4-3

図4-3受光部の流れを矩形管中の流れで近似

矩形管による管摩擦係数は次式のDk を等価直径とする円管で置き換えれば求められる。

 eq4-9       …式 4-9

ここでSは矩形管の断面積、Lw は矩形管の周囲長さ(ぬれ縁長さ)である。

模型ソーラーチムニー受光部内の体積taiseki を受光部内の通路長 0.25mで割っ

た断面積はdanmenseki なので、これをSの値とする。屋根の周辺高さが 0.01mであることから矩形の短辺 h=0.02であるとしよう。したがって

eq

これは、受光部の通路が直径3.6cm 、長さ25cmの直円管に置き換えられることを意味し ている。
平均流速については、中央筒の直径0.06m にくらべて約( 3.6/6 )^2=0.36倍の面積であるか ら、流速は面積の逆数倍となるので、
vであるとして、

eq レイノルズ数

この計算では、受光部内の圧力損失は中央筒の圧力損失より格段に大きく、中央筒で発生する圧力差に対抗する大きさであることがわかる。表4-1に圧力差と圧力損失の計算結果を示したが、圧力差と圧力損失はほぼ同じ大きさとなり、定常な流れになっていることが伺われる。

表 4-1計算結果

熱上昇流による圧力差 0.26 Pa(温度差 12K)
中央筒の圧力損失0.04 Pa (流速 0.4m/s)
受光部の圧力損失 0.30Pa (流速 0.4m/s)

ただし、中央筒の長さ0.55m (表3-3 A)

4-5 測定結果についての考察

4-5-1 中央筒の長さが長い方が流速が大きくなることは長さに比例して圧力差が生まれ る計算とも一致している。しかし、中央筒の長さをおよそ屋根直径ていどより長くした場合は、流速の伸び率は急速に低下して行く。予想では、中央筒を上昇中 に空気が冷却される可能性も考えていたが、実際には筒の内部での冷却はみられない。したがって、空気の流量が増えたことで屋根部分での空気の加熱不足が起 こっていると考えられる。

4-5-2中央筒が長い場合、温度が上がらず圧力差はそれほど大きくならないが、摩擦に よる圧力損失は流速に比例して増加しているはずなので、それが流速にブレーキをかけている効果も大きいはずである。

4-5-3屋根直径をめやすにして中央筒が短い場合は、空気は高温になるが、長さになこ とから、これらの合計が摩擦による圧力損失となり、定常作動時の流速を左右することになるだろう。圧力損失が浮力による圧力差と等しくなるまで流速が増え、定常状態になる。

4-5-4加熱不足はタービン回転数を読みとるために、ハロゲン灯の距離をやや遠くして 測定していることにも原因がある。タービン翼のピッチ角を大きくすれば、入射光を増やした測定が可能である。

4-6 大型模型についての考察

今 回製作した模型を大型化し、例えば直径数メートル程度とした場合、直径Dと流速vがそれぞれ10倍程度になるので、レイノルズ数は100倍程度となり、筒 と屋根部分の流れの両方が臨界レイノルズ数を超える。したがって、流れは乱流となり、圧力損失が急激に増大する可能性がある。逆に考えると、臨界レイノル ズ数に達しないぎりぎりの層流を保つサイズを詳細に検討すれば、圧力損失が少なく比較的高性能な発電模型が可能かも知れない。さらに大型な 装置では、ムーディー線図に見られるとおり、乱流であるが、大型になりレイノルズ数が増大するほど、摩擦係数は小さくなる。発電施設として意味のある大型 ソーラーチムニーは大型であるほど圧力損失が軽減するので、結果として、発電効率が大きくなると考えられる。

5 結論

  1. ソーラーチムニーの流れは中央筒内の熱上昇流による外気との圧力差が原動力となっている。そのことが模型製作と測定で確かめられた。
  2. 受光部での熱伝達促進と圧力損失の低減が流速を大きくすると考えられる。
  3. 中央筒が長いほど圧力差が大きくなるが、受光部での熱伝達には限界がある。模型 では、受光部の屋根の直径程度が目安と考えられる。
  4. 直径数十センチの模型内の流れは層流であるが、発電施設用のものでは乱流である。大型になるほど圧力損失が軽減するので、発電効率は大型程有利になると思われる。

 5.  受光部の摩擦力による圧力損失を見積もるために矩形路で近似する方法をとったが計算結果は実験結果とよく整合
      
し た。

6 おわりに

上に述べた結論以外に有意義に感じられたことをいくつか述べる。

1.  物理の授業で学習した法則や関係が思わぬところで役立つということがわかった。

2.  流体工学に関する内容は複雑で難解な部分もあるが、物理の方法を応用して組み立 てられていると感じられ、参考になった。

3.  熱線式風速計などの高価な測定器を使わず、タービン回転数から流速を測る方法を 見つけることが出来た。

参考文献

[1]EnviroMission 社 web.page … http://www.enviromission.com.au/EVM/content/home.html

[2]たとえば「改訂版高等学校物理T」,國友ほか,東京書籍,2009

[3]「JSME テキストシリーズ流体力学」,日本機械学会,丸善,2005

添付資料

資料1.海風の模型実験

バットに汲んだ水と黒画用紙を貼った発泡スチロール板で模型の海面と陸地を作り、上から太陽光の代用としてハロゲンランプの光を当てる。水平方向からプロジェクターやスライド映写機の光を当ててスクリーンに影を作るようにする。

この実験では砂浜に見立てた黒画用紙の表面に斜面にそって空気の流れが発生する様子をスクリーンで観察できる。写真は科学教室で子供達に実験を見せている。

資料2.ジャム瓶ソーラー風車

手軽に行うことができる小さな太陽熱風車の実験である。この実験は従来より知られていた「簡易ラジオメーター」と呼ばれる実験を子供達がやっても必ず上手く行くよう、感度を大幅に改良したものである。

羽 根車の根元に金属スナップを使って摩擦力を軽減させた。羽根を細かくして流れを漏れなく羽根に受けるようにしたさらに黒画用紙の吸光部を筒状にして羽根の 真下に置き、紙に沿って上昇する空気がまっすぐ羽根に当たるようにしたこのように改良することで、日光でも良く回るようになった。ジャム瓶をさかさまに使 用してフタをしているので、風の影響を受けない。そのまま手に持って移動できる。

ここで工夫したタービンと同じ形のタービンを模型ソーラーチムニーに使用した。